執行役員制度の導入と留意点

「執行役員(しっこうやくいん)制度」とは、平成9年(1997年)にソニー株式会社が導入して以来、多くの会社で採用されてきた法定外の制度である。業務執行と監督の分離が図られていない取締役会制度を採る従来型の会社(監査役設置株式会社のこと)において、米国のような分離の要素を取り入れるべく導入された。もっとも、取締役数を減少させて取締役会の規模の適正化を図る目的で導入された事例もある。日本監査役協会の調べによると、2016年現在、上場企業の7割が導入している。

以下、執行役員制度の概要から、会社法での扱い、権限、導入に至るプロセス、留意事項等について解説を行う。

・ 執行役員制度の概要(Q&A)

・ 導入段階で決定すべき事項

・ 執行役員制度の導入手続

・ 執行役員制度の運用上の留意点

・ 執行役員の類型と導入企業の状況

・ 執行役員規程モデル



精選 執行役員制度の設計と運用
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執行役員制度の概要(Q&A)

Q 執行役員制度を多くの企業が導入しているが、そもそも執行役員とはどのような制度か。


執行役員とは業務執行を担当する特別の役職の名称のことである。その性質・特徴は大きく分けて以下の通り。

  1. 「役員」という呼称が付いても、会社法上の取締役、執行役、監査役等ではない。従って取締役会の構成員にはならない。また登記も必要ない。
  2. 取締役会の決定に基づいて、業務の執行に専念する立場にある。
  3. 取締役と部長職の中間的立場であり、会社業務を陣頭指揮する。
  4. 会社法上の機関ではなく、特に「執行役」とは全く別のもの。

Q 執行役員制度が生まれた背景は何か。


会社法では、取締役会を会社の意思決定機関、業務監督機関とし、業務執行は代表取締役の任務であるとしているが、会社の規模が大きくなると、1人または数人の代表取締役だけで業務執行を十分に行うことは難しくなる。そのため、多くの企業では代表取締役以外の取締役も業務取締役として、または使用人兼務取締役として業務執行を担当させざるを得なくなる。つまり、取締役・取締役会が本来持っている「意思決定および監督」と「業務執行」という二つの側面のうち、「業務執行」に比重がかかり、意思決定に参加しているとは言い難い取締役も増えてきた。

そこで、取締役・取締役会には会社の重要な方針を決定する機能に専念し、業務執行に関することは「執行役員」に担当させることにより、取締役会ひいては会社全体の活性化を図ろうとする考え方が生まれ、登場したのが「執行役員制度」である。1997年にソニーが初めて導入したが、当時の同社の取締役は38人。7人のみを社内取締役として残し、執行役員制を導入した。

執行役員制度導入にあたっては、従来の役付(常務・専務等)取締役に相当する者だけを取締役とし、それ以外の役無し取締役クラスを取締役から外して、「執行役員」として業務執行だけを担当させるなど、その形態は企業によってさまざまである。


Q 執行役員は誰が選任するのか。


執行役員について会社法に規定はないが、会社から業務執行権限を付与されるという意味で、会社法上の「支配人」と同等の機能を有するといえる。したがって、執行役員を置くには、定款に規定することまでは必要としないが、必ず取締役会で選任しなければならない(法362条4項3号)。つまり執行役員には、取締役会の授権により執行権限が与えられると同時に、取締役会で決定した会社の方針の範囲内で、業務を執行するうえでの相応の決定権も与えられることになる。


Q 執行役員の導入により、取締役の負担・責任は変わるのか。


執行役員を置き役割分担がされても、取締役の負担・責任が軽くなるわけではなく、むしろ取締役の責任はいっそう重くなる。なぜなら、以前より少人数の取締役会で会社の基本方針を決定するという大きな責任を負う上に、執行役員に業務執行を委ねるので、それだけ取締役の監督責任は重くなるからである。そこで、執行役員を設置する会社では、社内規則を十分に整備して、各執行役員の担当業務(仕事)の範囲、執行役員に委ねる決定権の範囲、執行役員に対する補佐組織とそのルール、取締役会への報告のルールなどを明確に規定する必要が生じる。

Q 執行役員を導入した場合のメリット・デメリットは何か。


執行役員のメリット・デメリットは以下の通り。

<メリット>
  1. 取締役会の活性化、監督機能の強化
  2. 経営の意思決定機構の改革、意思決定の効率化(役員の人数が減るため)
  3. 執行役員に株主代表訴訟が適用されない可能性があり、訴訟リスク上は執行役員を保存できる。※1
  4. 執行役員は取締役会の構成員ではないため、人選の幅が広がり、スペシャリストや若手を登用しやすい。 
  5. 比較的少数の取締役が意思決定・監督機能を担うボード(取締役会)と業務執行を担うオフィサー(役員)を機能として持つアメリカの会社法制に近づくことになり、外国人投資家に分かりやすい。また、「オフィサー」や「CEO」などアメリカで馴染みのある役職名を採用した場合、外国人にとって会社組織の理解が容易になる効果がある。 
  6. 「執行役員」に従業員の最高位というイメージがある。 
  7. 取締役会の人員削減は、社外取締役導入のための環境整備となる。(取締役の人数が多いと社外取締役の監督機能は薄れる) 
  8. 権限と役割が明確化される。  
  9. 取締役の人数を減員すれば、取締役関係の諸経費の節減に資するといわれている。(但し、これは執行役員制度導入の本質的な目的とズレいる。)


<デメリット>
  1. 少数の取締役に権限が集中し、ワンマン・コントロールの会社になる可能性がある。 
  2. 取締役数の削減のみで終わるのであれば、単なるリストラといわれかねない。 
  3. 業務執行の中心にいる「執行役員」が、株主代表訴訟の対象とならないとなると、取締役の経営責任回避という問題が生じる。※2 
  4. これまで常務会等で行われていたことが、取締役会で行われるようになっただけという可能性も。

※1.2 但し、専務執行役員や副社長といった名称を使用している場合は表見代表取締役の行為が適用される余地がある。

Q 執行役員制度を導入する場合、執行役員と代表取締役、取締役会の関係をどのように捉えたらよいか。


会社法は、取締役会を会社業務の意思決定と取締役の業務執行についての監督を行う機関とし、また代表取締役を会社の代表機関であると同時に業務執行機関であると捉えている。そして執行役員を、代表取締役の指揮・監督の下に、その授権を受けて業務執行を行い、代表取締役を補助する者と位置づける考え方が主流となっている。従って、執行役員と取締役会とは、代表取締役を介しての間接的な関係にとどまることになる。

他方、会社法上、執行役員の選任・解任は取締役会の権限とされており(執行役員は、会社法362条4項3号の「重要な使用人」にあたると解されている)、この点から見ると、執行役員の権限の根拠は直接に取締役会の授権にあると考えられる。取締役会が業務執行権限を代表取締役と執行役員に直接に付与したと考える。

Q 執行役員は、会社に対してどのような義務を負担しているのか。


執行役員と会社との契約は、雇用契約(従業員としての身分に近い)か委任契約(役員の身分に近い)であるのが通常である。雇用契約である場合は、会社に対して被雇用者としての義務、すなわち善管注意義務や使用者の指揮命令に従って誠実に労働する義務を負担する。他方、委任契約であれば、執行役員は受任者として民法が規定する各種の義務(善管注意義務、報告義務など。民法644条~646条、654条)を負担する。いずれの場合でも、執行役員が労働基準法上の労働者にあたれば、執行役員は労働契約の内容となる就業規則に従う義務がある。

Q 執行役員を取締役と部長の間に設けるケースが多いようだが、なぜか。


一般的に企業における「部長」は、あくまでも経営者の予備軍であり、従業員として位置づけられる。それに対して「執行役員」は、今までトップの役割であった業務執行を代わって行うわけであるから、重い職責を有する経営者的な地位にあると位置づけられる。よって、一般的に取締役と部長との間に位置づけていることが多い。また、執行役員という肩書きを付けることで、待遇でインセンティブをもたせる効果があり、「部長」よりも「役員」の方が重く受け止められるといったメリットも考えられる。

Q 執行役員は株主総会に出席して株主に説明する権利や義務があるのか。


株主総会は会社の最高の意思決定機関なので、代表取締役や取締役は出席権や出席義務がある。これに対し執行役員は、代表取締役の指揮・監督の下で具体的業務を執行する者に過ぎず、会社法上の機関でも機関構成員でもないので、株主総会に出席する権利と義務はない。

ただし、具体的な業務執行は執行役員に委ねられているので、業務執行に関する株主からの質問の中には、取締役では的確に答えられない事項もある。その場合には、担当業務に精通している立場の執行役員の協力が必要となる。協力の仕方としては、取締役が説明を行う際に、その場で助言する方法と執行役員が直接説明を行う方法がある。なお、執行役員の出席については、代表取締役からの委嘱(業務命令)によることとなる。

Q 執行役員は取締役会に出席できるか。


執行役員は担当部門の最高責任者であることが通常であり、取締役会にとって執行役員の出席が必要とされるケースがある。すなわち担当する業務執行の報告・説明等に関して代表取締役を補佐するために出席し、または求められて自ら詳細の説明をし、質問に答えるなどがその例である。

ただし、執行役員は、取締役会での意思決定の際の議論や決議に参加することは許されない。取締役会への情報提供の範囲内であれば、取締役会の審議への協力行為として許されるものと考えられる。なお、この場合の執行役員の出席は、通常は代表取締役の業務命令によるものと解される。

Q 執行役員の任期は自由に決めてよいのか。また決める場合の留意点は何か。


執行役員の任期は必ずしも必要ないとの意見もあるが、比較的短期の任期を定め、その間の成果を問題にすべきとの考え方が、執行役員制度の趣旨にあっていると思われる。以下、契約形態別に見た任期について説明する。

1.執行役員との契約が労働契約にあたる場合

①任期を労働契約期間とした場合
労働契約の任期は原則として1年を超えることはできないので(労働基準法14条)、1年ごとに契約を更新することになる。

②任期を役職担当機関とした場合
この場合は、労働契約期間とは無関係に、執行役員という役職の期間を任期の期間として定めることになる。従って、その任期が満了しても、執行役員の地位を失うだけで、従業員の地位は残る。このケースでは、労働基準法上の制約はなく、会社は任意にその期間を定めることになるが、任期中に定年を迎えたり、解雇されたりするなど、従業員としての地位を失えば、原則として執行役員としての役職は失うことになる。

2.執行役員との契約が労働契約にあたらない場合

執行役員との契約が純粋に委任契約と認められる場合には任期に規制はないので、会社と執行役員との間で任期を自由に決めることができる。その場合は、期間の定めに関係なく双方から解除が可能であること、また不利な時期になされた解除に対しては、相手方には損害賠償請求権が認められることに注意する必要がある。

任期を何年と定めるかは政策的事項だが、あまりに長期では緊張感を持った業務執行は期待できず、逆に短すぎると十分な能力が発揮できず、結果的には更新が原則となって、期間の意味がなくなるおそれがある。一般的には、取締役の任期が通常2年であることや、労働契約の期間が原則1年とされていることから、1年から2年の期間を定める例が多いようである。

Q 執行役員制度の導入について、株主総会における承認や報告は必要か。


株主総会の決議は必要ないが、取締役会で執行役員制度を導入することについての決議は必要。会社法362条4項4号では、代表取締役に決定させることのできない事項、つまり取締役会で決定すべき重要な業務の一つとして「支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」を規定している。執行役員の導入・創設は「重要な組織の設置」にあたるといえる。従って、執行役員制度の導入は、取締役会において決議すべきである。

なお、執行役員制度の導入に伴い取締役の員数が大幅に減少した場合は、取締役の員数変更に係る定款変更の決議をすることも考えられ、その場合は株主総会決議が必要である。取締役の報酬枠を決議している会社は、その額を削減し上程することも考えらえる。

多くの会社では、取締役の員数削減の理由に関連して、取締役会改革及び執行役員制度の導入につき説明している。なお、株主総会において新任の執行役員を紹介し、決議通知にも役員人事のお知らせ等として就任した執行役員を記載する会社が多い。

Q 執行役員を選任する手続きは何か。


執行役員は、代表取締役が有する業務執行権限の一部を分担する者であり、担当部門の最高責任者であることが通常である。そして、その業務執行については、取締役会や代表取締役から監督を受けることとなる。会社法362条4項3号は取締役に決定させることのできない事項、すなわち取締役会で決定すべき重要な業務として「支配人その他の重要なる使用人の選任及び解任」を規定している。執行役員は高度な裁量権を持ち、業務執行を分担する地位にあるといえるため、単なる使用人ではなく「重要なる使用人」に該当すると考えられている。従って、執行役員の選任は、取締役会において決議しなければならず、また、代表取締役に選任を委任することはできないとされている。

執行役員選任の決議については、「重要なる使用人」の選任決議の要件に従うことになるので、会社法369条1項、2項により、取締役会の構成員の過半数が出席し、出席者の過半数の賛成をもって決することとなる。

Q 執行役員にはどのような肩書き・名称を付ければよいか。


執行役員は会社法に規定のない制度なので、これをどのように具体的に導入して位置づけるかは、各々の企業に任されている。名称についても同様で、どのような呼称を付けるかは企業に任されている。単に「執行役員」や「Officer(オフィサー)」の名称を用いている会社もあるが、「専務執行役員」「常務執行役員」「上席常務執行役員」等の名称を使用する会社もある。

なお、会社法354条は、「社長、副社長、その他会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付したる取締役」の行為については、たとえその者に代表権がなくても、代表権があると信じて取引をした第三者に対して会社は責任を負うと規定し、取引の相手方を保護している。これは「表見代表取締役」の行為の責任というが、この点には注意が必要である。取締役(代表権のない)と兼務している場合でも、兼務していない場合も同様であり、「副社長執行役員」や「専務執行役員」の肩書きを付ける場合には留意したい。

また、会社によっては「取締役専務執行役員」「専務執行役員」「取締役常務執行役員」「常務執行役員」「取締役執行役員」「執行役員」といった肩書を混在している事例もあり、この場合は、誰が偉いのか外部からは分かりにくい。

Q 執行役員の報酬は、取締役会で決めるのか。


執行役員は「重要な使用人」にあたるので、その給与・年収等は取締役会の決議により決定されるべきことになる。執行役員規程を作成し、その中で報酬について規定することが多い。

Q 執行役員は英文でどう表記するのか。


一般的に執行役員は英語で「corporate officer 」と表記する。また、専務執行役員は「senior corporate executive officer」、常務執行役員は「associate senior corporate executive officer」で表記されることが多い。

Q 「委任型執行役員」とは何か。


日本企業で通常導入されている執行役員は「雇用型」と呼ばれ、雇用関係上は従業員となる。一方「委任型」はプロ野球選手のように原則、1年契約で会社と委任契約を結ぶ。独立性が高く、業務を自由に進めやすい半面、結果責任を厳しく問われることとなる。「雇用型」に比べて経営に参画する意識が強くなり、執行役員の緊張感が増すメリットがある。

Q 取締役ではない「社長執行役員」とは何か。会社法での扱いはどうなるのか。


取締役ではない「社長執行役員」とは任意の役職にすぎず、会社法は何も規定していない。執行役員は業務執行取締役の指揮監督下で委任された権限を行使する『重要な使用人』であるため、法的には、社長執行役員は代表取締役の指揮命令に従うとしつつ、事実上は経営計画の策定などでトップの役割を果たすことになる。

社長は代表取締役や代表執行役が就く経営トップの地位を指すが、取締役でない執行役員の中から社長を選ぶ「社長執行役員」であれば、株主総会を待たずに事業年度の途中であっても、新経営体制に移行できるというメリットがある。また、非取締役が円滑に経営トップの地位に就き、会社にリーダーシップの空白期間を作らないために社長執行役員とするケースが多く、取締役でない社長執行役員の役職を使うのは、臨時の処置が多い。

なお、執行役員と会社の関係は雇用契約と委任契約が存在するが、労働法の保護を受ける雇用関係は経営責任を負うトップの地位にそぐわないため、社長執行役員は委任契約としたほうが良い。

~参考文献~
東洋経済新報社「執行役員制度―運用のための理論と実務」(浜辺 陽一郎)
商事法務№1524「執行役員制度の実務マニュアル」
商事法務№1539「執行役員制度をめぐる理論と実務〔上〕」
商事法務№1540「執行役員制度をめぐる理論と実務〔下〕」
商事法務№1576「取締役と執行役員の関係」
商事法務№1577「取締役の執行役員兼務に関する諸問題」
商事法務№1643「執行役の選任・権限等と執行役員との関係」

執行役員制度の導入段階で決定すべき事項

執行役員制度の導入段階では、主に以下の3項目を検討する。


1.主要経営機構再編・執行役員制度導入の目的の明確化

執行役員制度の導入段階においては、まず、主要経営機構改革・執行役員制度導入の目的の明確化を行うことが必要である。本質的には「取締役会の活性化」が目的となる。単なる取締役の減員と形式的な執行役員の配置は意味がない。


2.経営機構の具体的再編成と執行役員の位置付けの検討

取締役会の位置付け及び人数につき、経営機構改革の目的を達成するためにどのような再編成を行えばよいかを、実態をふまえて具体的に検討する。執行役員の権限は、法律上定まるものではなく、職務分掌規程等で定まることになるので、職務については具体的に規定する。また、その数も、経営機構改革の目的を達成するために必要かつ十分な人数を決定する。尚、執行役員の就任パターンは以下の3つに大別される。

A:会社の従業員が、従業員としての地位を喪失せずに(執行役員への就任が退職事由とはならずに)執行役員に就任する。

B:会社の取締役が、退任した上で、執行役員に就任する。

C:会社の取締役が、取締役としての地位を保持したまま、執行役員に就任する(取締役兼務執行役員)。
 
ここで最大の問題となるのは「取締役と兼務するのかしないのか」であるが、制度導入の目的、諸事情に照らして選択することとなる。尚、取締役が執行役員と兼務することは違法ではない。
(参考:執行役員の類型と導入企業の状況


3.各規程の整備、候補者の選考

執行役員制度導入にあたっては、定款、取締役会規程、監査役会規程、職務分掌規程及び就業規程等の改訂、並びに、執行役員規程、契約書及び就任承諾書等の作成が必要である。また、候補者の選考を行う際は、経営全体の方向性を考える取締役と、具体的業務執行を担当する執行役員では、求められる人材が異なることを考慮する必要がある。

執行役員制度の導入手続

執行役員制度導入の流れは以下の通り。

・定時株主総会

(※導入に伴い、取締役が数名退任すると想定した場合)

 ■ 退任取締役への退職慰労金贈呈議案(退職慰労金制度があれば)
 ■ 定款変更議案:取締役の員数枠の削減
 ■ 取締役の報酬枠の改訂議案
 ■ 退任取締役の退任報告(任意)

・株主総会直後の取締役会

 ■ 執行役員制度の導入を決議
 ■ 規程(執行役員規程等)の整備
 ■ 各執行役員の選任

執行役員制度の導入及び執行役員の選任は取締役会決議で可能であるので、株主総会で承認等を得る必要はないが、執行役員制度導入は経営機構の大きな再編等を伴うことであり、株主総会で導入についての説明はするべきであろう。また、株主総会終了後に送付される決議通知に、制度導入について記載し、あわせて総会後の取締役会で選任された執行役員の氏名を記載することが望ましい。事前に執行役員制度導入に関するプレスリリースを出す企業も多い。

執行役員制度の運用上の留意点

執行役員制度の運用場面では、「執行役員の法的地位」「執行役員の権限」「会社の他機関等の執行役員に対する関係」に留意する必要がある。


1.執行役員の法的地位(会社との契約関係)

会社との契約関係が、就任パターンによって多少の差異が生じる。

A:会社の従業員が、従業員としての地位を喪失せずに(執行役員への就任が退職事由とはならずに)執行役員に就任する。

この場合は、雇用関係。

B:会社の取締役が、退任した上で、執行役員に就任する。

この場合は、雇用契約でも委任契約でも可能。会社が当該執行役員をどのように位置づけるかにより決まる。

C:会社の取締役が、取締役としての地位を保持したまま、執行役員に就任する(取締役兼務執行役員)。

この場合は、委任関係(委任型)。


2.執行役員の権限

現行法上は、執行役員に法律上権限が与えられているものではなく、その就任によって当然何らかの権限が生ずるものではない。その権限の具体的内容は、執行役員規程や職務分掌規程などによって定められる。


3.会社の他機関等の執行役員に対する関係

■ 株主総会

執行役員は株主総会に出席する権利義務はないが、取締役の指示に基づいて出席することは可能である。

■ 取締役会

取締役会は執行役員について選任及び解任権を有する。また、執行役員は取締役会の審議や決議に参加できないが、取締役の指示に基づいて、取締役会において説明や報告を行うことは可能である。

■ 代表取締役

執行役員は、代表取締役の業務執行権限の委譲を受けて業務執行を行う使用人であるから、代表取締役は、執行役員に対する監視監督を直接行う権限を有しており、かつ、義務を負うと考えられる。

■ 各取締役

各取締役は取締役会を通じて代表取締役の業務執行について監視監督する義務を負うため、代表取締役の業務執行権限の委譲を受けた執行役員の行為につき、代表取締役を監視監督することによって、間接的に監督する権限と義務を負うと考えられる。

■ 監査役、監査役会

監査役は執行役員の行為について、直接に差止請求権を行使することはできないが、取締役の職務の執行を監査する権限と職責を負う(会社法381条1項)ため、取締役(代表取締役)に対して監査権限を行使し、取締役をして、執行役員の行為について監視監督させることで、取締役を通じて、間接的に、執行役員の行為に対して監査権限を行使することができる。

執行役員の類型と導入企業の状況

執行役員制度には大きく分けて二つの類型(取締役と兼務しているか否か)に分けることができる。それぞれ短所が存在する。


①ほとんどの取締役が執行役員と兼務している型

取締役であるかどうかは関係なしに、具体的な業務執行を行うかどうか否に着眼し、これを行う者を執行役員とする。

<短所>

近年のコーポレート・ガバナンス論やコンプライアンス重視の傾向からは、経営者の業務執行の妥当性および適法性の監督・規律を如何に構築するかという点に関心が集中しており、わが国でも取締役の業務執行者からの独立性を重視する見解が勢いを増している。


②取締役と執行役員の兼務はない型

全社的な意思決定に参加する者を取締役とし、各部門にのみ責任を負う者を執行役員とする。

<短所>

取締役会と執行役員とが全く別々の者で構成されるとなると、両者間の意思疎通が十分図れないのではないかというではないかという問題が生ずる。また、実務面としては、日本社会において、商談の席に「取締役」の肩書きのある人物が出る、出ないでは雲泥の差があるといわれている。


・執行役員制度を導入している企業の状況

取締役が執行役員を兼務する企業は、執行役員制度導入企業のほぼ半数である。しかし、役員一覧に執行役員を兼務している旨の記載がない場合でも、実際は特定の事業部長や工場長の職にある取締役がかなりの数存在し、また代表取締役は、法的には取締役会から業務執行権限を委譲された執行責任者であるため、実際は執行機能を担当していると考えられる。これらの実質的な兼任者数を推計すると、兼任比率は80.6%になる(早稲田大学ファイナンス研究所「日本企業の取締役改革」)。

また、取締役数の適正化と併せて執行役員制度を導入した企業では、従来の使用人兼務取締役は単なる執行役員となり、従来の役付取締役クラスが執行役員を兼務する取締役となることが多い。

執行役員規程モデル

執行役員規程

第1章 総  則

(目的および適用範囲)
第1条 本規程は、株式会社○○(以下「会社」という。)の執行役員の就任および退任、担当業務、義務ならびに報酬および待遇に関する基本的事項を定める。
② 前項にかかわらず、取締役が執行役員を兼務する場合には、取締役に対して適用される法令、定款、その他会社諸規程の適用が本規程に優先する。

(執行役員)
第2条 執行役員とは、取締役会で選任された会社の業務執行を担当する経営幹部をいう。
② 取締役社長は、業務執行の最高責任者として、会社業務全般を統括、執行する。
③ 取締役社長のほか、執行役員の役位として副社長執行役員、専務執行役員および常務執行役員を設けることができる。役位の決定は取締役会の決議をもって行う。

(取締役会決議の優先)
第3条 執行役員の担当業務および具体的な待遇等については、本規程に定めるほか、取締役会の決議による。
② 就業規則は、特に本規程で準用する場合を除き、執行役員には適用されない。
③ その他会社諸規程が執行役員に準用されるにあたっては、取締役会の決議が優先する。

第2章 就任および退任

(選任)
第4条 執行役員の選任は、取締役会の決議による。
② 執行役員は、取締役と同様の法定の要件(会社法331条1項および独占禁止法13条)を備え、その職責を全うすることのできる者でなければならない。

(執行役員就任承諾書の提出)
第5条 執行役員に選任された者が就任を承諾したときは、速やかに所定の執行役員就任承諾書を会社に提出しなければならない。
② 前項の規定は、執行役員が重任した場合にもこれを準用する。
③ 執行役員の就任の日は、取締役会で決定した日付とする。

(従業員の身分との関係)
第6条 従業員である者が執行役員に就任したときは、前条第3項の就任日の前日をもって従業員としての身分を失い退職とし、従業員退職金規程により退職金を支給する。
② 労働基準法、社会保険法その他法令の適用については、各法律の定めるところによる。

(退任)
第7条 執行役員が次の各号のいずれかに該当する場合は、自動的に退任し、執行役員としての身分を失う。
1.任期満了
2.辞任
3.死亡
4.解任
5.第4条第2項に定める資格の喪失
6.監査役、監査等委員への就任

(任期)
第8条 執行役員の任期は、就任後○年以内に終了する事業年度のうち最終のものの末日までとする。

(退任後の処遇等)
第9条 執行役員を退任したときは、会社と新たに雇用契約を締結しない限り、従業員としての身分を有しない。
② 会社は、退任する執行役員に対し、在任中の職位又は功績等を勘案し、顧問、嘱託等を委嘱することができる。
③ 執行役員を退任する場合は、担当業務の引継ぎを完了し、かつ退任後も、その在職期間中の業務執行について責任を負うとともに、会社が必要と認めたときは会社に協力しなければならない。

(辞任)
第10条 執行役員を辞任する場合は、1ヶ月前に取締役社長に届け出るものとする。ただし、特段の事由がある場合はこの限りではない。

(懲戒および解任)
第11条 執行役員が次の各号のいずれかに該当する場合は、取締役会の決議により、当該執行役員を懲戒または解任することができる。
1.執行役員として不正、不当または背信を疑われる行為があったとき
2.執行役員としての適格性に欠けると認められるとき
3.従業員就業規則の懲戒事由に該当するとき
4.執行役員の業務執行の過程またはその成果が不十分であり、かつ取締役会が本人を引き続き執行役員の地位におくことが不適当であると判断するとき
5.第17条の規定に違反する行為、その他執行役員としてふさわしくない行為または言動があったとき

第3章 担当業務

(担当業務)
第12条 執行役員は、取締役会の決議に従い取締役社長の指揮の下、担当業務の執行を行う。
② 取締役会は、その決議により執行役員の担当業務、その他の事項について変更することができる。
③ 取締役会および各取締役は、執行役員の業務執行を監督する権限を有し、その責任を負う。

(報告)
第13条 執行役員は、定期的に担当業務の執行状況を取締役社長に報告しなければならない。
② 執行役員は、取締役または監査役から調査、報告あるいは説明を求められた場合には、速やかにこれらを行わなければならない。

(取締役会への出席)
第14条 執行役員は、取締役会に出席を求められたときには随時出席し、担当業務の執行状況についての報告および説明をしなければならない。

(法令等の遵守)
第15条 執行役員は、本規程に定める事項に加え、法令、定款、会社諸規程、株主総会決議および取締役会決議を遵守しなければならない。

(忠実義務等)
第16条 執行役員は、経営責任者の一翼を担うことを自覚し、他の模範となるよう常に研鑽を重ねて誠実かつ忠実に執行役員としての職責を全うする義務を負う。

第4章 義  務

(禁止事項)
第17条 執行役員は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
1.法令、定款、その他会社諸規程に定める義務に違反すること
2.取締役会の承認なく、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること
3.取締役会の承認なく、自己または第三者のために会社と取引すること
4.取締役会の承認なく、会社に自己の債務を保証させることその他第三者との間において会社と自己との利益が相反する取引をすること
5.業務に関し、不正または不当な個人的利益を享受すること
6.業務上知り得た秘密を正当な理由なく会社の内外に漏洩または開示すること
7.会社の名誉、信用を害するような行為または言動をすること
8.その他会社の利益を害する一切の行為および執行役員の職責に違背する行為

(個人的利益の返還)
第18条 執行役員が業務に関し、不正または不当な個人的利益を得たときには、その利益を会社に返還しなければならない。

(損害賠償)
第19条 執行役員が、故意または重大な過失により、もしくはその職責に違背した行為により会社に損害を生じさせた場合、当該執行役員は、その損害の全部または一部を会社に対して賠償するものとする。
② 執行役員が、本規程に反する行為または不作為により会社に損害を生じさせた場合も前項と同様とする。

第5章 報酬および待遇

(報酬)
第20条 執行役員の報酬および賞与は、取締役会の決議による。ただし、取締役会はその決定を取締役社長に一任することができる。

(出張、慶弔見舞)
第21条 執行役員の出張、慶弔見舞に該当する事項については、取締役に関する規定を準用する。

(改廃)
第22条 本規程の改廃は、取締役会の決議による。

附  則

(実施)
第1条 本規程は○○年○月○日から実施する。


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荻原 勝
経営書院
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