執行役員制度の導入と留意点

「執行役員(しっこうやくいん)制度」とは、平成9年(1997年)にソニー株式会社が導入して以来、多くの会社で採用されてきた法定外の制度である。業務執行と監督の分離が図られていない取締役会制度を採る従来型の会社(監査役設置株式会社のこと)において、米国のような分離の要素を取り入れるべく導入された。もっとも、取締役数を減少させて取締役会の規模の適正化を図る目的で導入された事例もある。日本監査役協会の調べによると、2016年現在、上場企業の7割が導入している。

以下、執行役員制度の概要から、会社法での扱い、権限、導入に至るプロセス、留意事項等について解説を行う。

・ 執行役員制度の概要(Q&A)

・ 導入段階で決定すべき事項

・ 執行役員制度の導入手続

・ 執行役員制度の運用上の留意点

・ 執行役員の類型と導入企業の状況

・ 執行役員規程モデル



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執行役員制度の概要(Q&A)

Q 執行役員制度を多くの企業が導入しているが、そもそも執行役員とはどのような制度か。


執行役員とは業務執行を担当する特別の役職の名称のことである。その性質・特徴は大きく分けて以下の通り。

  1. 「役員」という呼称が付いても、会社法上の取締役、執行役、監査役等ではない。従って取締役会の構成員にはならない。また登記も必要ない。
  2. 取締役会の決定に基づいて、業務の執行に専念する立場にある。
  3. 取締役と部長職の中間的立場であり、会社業務を陣頭指揮する。
  4. 会社法上の機関ではなく、特に「執行役」とは全く別のもの。

Q 執行役員制度が生まれた背景は何か。


会社法では、取締役会を会社の意思決定機関、業務監督機関とし、業務執行は代表取締役の任務であるとしているが、会社の規模が大きくなると、1人または数人の代表取締役だけで業務執行を十分に行うことは難しくなる。そのため、多くの企業では代表取締役以外の取締役も業務取締役として、または使用人兼務取締役として業務執行を担当させざるを得なくなる。つまり、取締役・取締役会が本来持っている「意思決定および監督」と「業務執行」という二つの側面のうち、「業務執行」に比重がかかり、意思決定に参加しているとは言い難い取締役も増えてきた。

そこで、取締役・取締役会には会社の重要な方針を決定する機能に専念し、業務執行に関することは「執行役員」に担当させることにより、取締役会ひいては会社全体の活性化を図ろうとする考え方が生まれ、登場したのが「執行役員制度」である。1997年にソニーが初めて導入したが、当時の同社の取締役は38人。7人のみを社内取締役として残し、執行役員制を導入した。

執行役員制度導入にあたっては、従来の役付(常務・専務等)取締役に相当する者だけを取締役とし、それ以外の役無し取締役クラスを取締役から外して、「執行役員」として業務執行だけを担当させるなど、その形態は企業によってさまざまである。


Q 執行役員は誰が選任するのか。


執行役員について会社法に規定はないが、会社から業務執行権限を付与されるという意味で、会社法上の「支配人」と同等の機能を有するといえる。したがって、執行役員を置くには、定款に規定することまでは必要としないが、必ず取締役会で選任しなければならない(法362条4項3号)。つまり執行役員には、取締役会の授権により執行権限が与えられると同時に、取締役会で決定した会社の方針の範囲内で、業務を執行するうえでの相応の決定権も与えられることになる。


Q 執行役員の導入により、取締役の負担・責任は変わるのか。


執行役員を置き役割分担がされても、取締役の負担・責任が軽くなるわけではなく、むしろ取締役の責任はいっそう重くなる。なぜなら、以前より少人数の取締役会で会社の基本方針を決定するという大きな責任を負う上に、執行役員に業務執行を委ねるので、それだけ取締役の監督責任は重くなるからである。そこで、執行役員を設置する会社では、社内規則を十分に整備して、各執行役員の担当業務(仕事)の範囲、執行役員に委ねる決定権の範囲、執行役員に対する補佐組織とそのルール、取締役会への報告のルールなどを明確に規定する必要が生じる。

Q 執行役員を導入した場合のメリット・デメリットは何か。


執行役員のメリット・デメリットは以下の通り。

<メリット>
  1. 取締役会の活性化、監督機能の強化
  2. 経営の意思決定機構の改革、意思決定の効率化(役員の人数が減るため)
  3. 執行役員に株主代表訴訟が適用されない可能性があり、訴訟リスク上は執行役員を保存できる。※1
  4. 執行役員は取締役会の構成員ではないため、人選の幅が広がり、スペシャリストや若手を登用しやすい。 
  5. 比較的少数の取締役が意思決定・監督機能を担うボード(取締役会)と業務執行を担うオフィサー(役員)を機能として持つアメリカの会社法制に近づくことになり、外国人投資家に分かりやすい。また、「オフィサー」や「CEO」などアメリカで馴染みのある役職名を採用した場合、外国人にとって会社組織の理解が容易になる効果がある。 
  6. 「執行役員」に従業員の最高位というイメージがある。 
  7. 取締役会の人員削減は、社外取締役導入のための環境整備となる。(取締役の人数が多いと社外取締役の監督機能は薄れる) 
  8. 権限と役割が明確化される。  
  9. 取締役の人数を減員すれば、取締役関係の諸経費の節減に資するといわれている。(但し、これは執行役員制度導入の本質的な目的とズレいる。)


<デメリット>
  1. 少数の取締役に権限が集中し、ワンマン・コントロールの会社になる可能性がある。 
  2. 取締役数の削減のみで終わるのであれば、単なるリストラといわれかねない。 
  3. 業務執行の中心にいる「執行役員」が、株主代表訴訟の対象とならないとなると、取締役の経営責任回避という問題が生じる。※2 
  4. これまで常務会等で行われていたことが、取締役会で行われるようになっただけという可能性も。

※1.2 但し、専務執行役員や副社長といった名称を使用している場合は表見代表取締役の行為が適用される余地がある。

Q 執行役員制度を導入する場合、執行役員と代表取締役、取締役会の関係をどのように捉えたらよいか。


会社法は、取締役会を会社業務の意思決定と取締役の業務執行についての監督を行う機関とし、また代表取締役を会社の代表機関であると同時に業務執行機関であると捉えている。そして執行役員を、代表取締役の指揮・監督の下に、その授権を受けて業務執行を行い、代表取締役を補助する者と位置づける考え方が主流となっている。従って、執行役員と取締役会とは、代表取締役を介しての間接的な関係にとどまることになる。

他方、会社法上、執行役員の選任・解任は取締役会の権限とされており(執行役員は、会社法362条4項3号の「重要な使用人」にあたると解されている)、この点から見ると、執行役員の権限の根拠は直接に取締役会の授権にあると考えられる。取締役会が業務執行権限を代表取締役と執行役員に直接に付与したと考える。

Q 執行役員は、会社に対してどのような義務を負担しているのか。


執行役員と会社との契約は、雇用契約(従業員としての身分に近い)か委任契約(役員の身分に近い)であるのが通常である。雇用契約である場合は、会社に対して被雇用者としての義務、すなわち善管注意義務や使用者の指揮命令に従って誠実に労働する義務を負担する。他方、委任契約であれば、執行役員は受任者として民法が規定する各種の義務(善管注意義務、報告義務など。民法644条~646条、654条)を負担する。いずれの場合でも、執行役員が労働基準法上の労働者にあたれば、執行役員は労働契約の内容となる就業規則に従う義務がある。

Q 執行役員を取締役と部長の間に設けるケースが多いようだが、なぜか。


一般的に企業における「部長」は、あくまでも経営者の予備軍であり、従業員として位置づけられる。それに対して「執行役員」は、今までトップの役割であった業務執行を代わって行うわけであるから、重い職責を有する経営者的な地位にあると位置づけられる。よって、一般的に取締役と部長との間に位置づけていることが多い。また、執行役員という肩書きを付けることで、待遇でインセンティブをもたせる効果があり、「部長」よりも「役員」の方が重く受け止められるといったメリットも考えられる。

Q 執行役員は株主総会に出席して株主に説明する権利や義務があるのか。


株主総会は会社の最高の意思決定機関なので、代表取締役や取締役は出席権や出席義務がある。これに対し執行役員は、代表取締役の指揮・監督の下で具体的業務を執行する者に過ぎず、会社法上の機関でも機関構成員でもないので、株主総会に出席する権利と義務はない。

ただし、具体的な業務執行は執行役員に委ねられているので、業務執行に関する株主からの質問の中には、取締役では的確に答えられない事項もある。その場合には、担当業務に精通している立場の執行役員の協力が必要となる。協力の仕方としては、取締役が説明を行う際に、その場で助言する方法と執行役員が直接説明を行う方法がある。なお、執行役員の出席については、代表取締役からの委嘱(業務命令)によることとなる。

Q 執行役員は取締役会に出席できるか。


執行役員は担当部門の最高責任者であることが通常であり、取締役会にとって執行役員の出席が必要とされるケースがある。すなわち担当する業務執行の報告・説明等に関して代表取締役を補佐するために出席し、または求められて自ら詳細の説明をし、質問に答えるなどがその例である。

ただし、執行役員は、取締役会での意思決定の際の議論や決議に参加することは許されない。取締役会への情報提供の範囲内であれば、取締役会の審議への協力行為として許されるものと考えられる。なお、この場合の執行役員の出席は、通常は代表取締役の業務命令によるものと解される。

Q 執行役員の任期は自由に決めてよいのか。また決める場合の留意点は何か。


執行役員の任期は必ずしも必要ないとの意見もあるが、比較的短期の任期を定め、その間の成果を問題にすべきとの考え方が、執行役員制度の趣旨にあっていると思われる。以下、契約形態別に見た任期について説明する。

1.執行役員との契約が労働契約にあたる場合

①任期を労働契約期間とした場合
労働契約の任期は原則として1年を超えることはできないので(労働基準法14条)、1年ごとに契約を更新することになる。

②任期を役職担当機関とした場合
この場合は、労働契約期間とは無関係に、執行役員という役職の期間を任期の期間として定めることになる。従って、その任期が満了しても、執行役員の地位を失うだけで、従業員の地位は残る。このケースでは、労働基準法上の制約はなく、会社は任意にその期間を定めることになるが、任期中に定年を迎えたり、解雇されたりするなど、従業員としての地位を失えば、原則として執行役員としての役職は失うことになる。

2.執行役員との契約が労働契約にあたらない場合

執行役員との契約が純粋に委任契約と認められる場合には任期に規制はないので、会社と執行役員との間で任期を自由に決めることができる。その場合は、期間の定めに関係なく双方から解除が可能であること、また不利な時期になされた解除に対しては、相手方には損害賠償請求権が認められることに注意する必要がある。

任期を何年と定めるかは政策的事項だが、あまりに長期では緊張感を持った業務執行は期待できず、逆に短すぎると十分な能力が発揮できず、結果的には更新が原則となって、期間の意味がなくなるおそれがある。一般的には、取締役の任期が通常2年であることや、労働契約の期間が原則1年とされていることから、1年から2年の期間を定める例が多いようである。

Q 執行役員制度の導入について、株主総会における承認や報告は必要か。


株主総会の決議は必要ないが、取締役会で執行役員制度を導入することについての決議は必要。会社法362条4項4号では、代表取締役に決定させることのできない事項、つまり取締役会で決定すべき重要な業務の一つとして「支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止」を規定している。執行役員の導入・創設は「重要な組織の設置」にあたるといえる。従って、執行役員制度の導入は、取締役会において決議すべきである。

なお、執行役員制度の導入に伴い取締役の員数が大幅に減少した場合は、取締役の員数変更に係る定款変更の決議をすることも考えられ、その場合は株主総会決議が必要である。取締役の報酬枠を決議している会社は、その額を削減し上程することも考えらえる。

多くの会社では、取締役の員数削減の理由に関連して、取締役会改革及び執行役員制度の導入につき説明している。なお、株主総会において新任の執行役員を紹介し、決議通知にも役員人事のお知らせ等として就任した執行役員を記載する会社が多い。

Q 執行役員を選任する手続きは何か。


執行役員は、代表取締役が有する業務執行権限の一部を分担する者であり、担当部門の最高責任者であることが通常である。そして、その業務執行については、取締役会や代表取締役から監督を受けることとなる。会社法362条4項3号は取締役に決定させることのできない事項、すなわち取締役会で決定すべき重要な業務として「支配人その他の重要なる使用人の選任及び解任」を規定している。執行役員は高度な裁量権を持ち、業務執行を分担する地位にあるといえるため、単なる使用人ではなく「重要なる使用人」に該当すると考えられている。従って、執行役員の選任は、取締役会において決議しなければならず、また、代表取締役に選任を委任することはできないとされている。

執行役員選任の決議については、「重要なる使用人」の選任決議の要件に従うことになるので、会社法369条1項、2項により、取締役会の構成員の過半数が出席し、出席者の過半数の賛成をもって決することとなる。

Q 執行役員にはどのような肩書き・名称を付ければよいか。


執行役員は会社法に規定のない制度なので、これをどのように具体的に導入して位置づけるかは、各々の企業に任されている。名称についても同様で、どのような呼称を付けるかは企業に任されている。単に「執行役員」や「Officer(オフィサー)」の名称を用いている会社もあるが、「専務執行役員」「常務執行役員」「上席常務執行役員」等の名称を使用する会社もある。

なお、会社法354条は、「社長、副社長、その他会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付したる取締役」の行為については、たとえその者に代表権がなくても、代表権があると信じて取引をした第三者に対して会社は責任を負うと規定し、取引の相手方を保護している。これは「表見代表取締役」の行為の責任というが、この点には注意が必要である。取締役(代表権のない)と兼務している場合でも、兼務していない場合も同様であり、「副社長執行役員」や「専務執行役員」の肩書きを付ける場合には留意したい。

また、会社によっては「取締役専務執行役員」「専務執行役員」「取締役常務執行役員」「常務執行役員」「取締役執行役員」「執行役員」といった肩書を混在している事例もあり、この場合は、誰が偉いのか外部からは分かりにくい。

Q 執行役員の報酬は、取締役会で決めるのか。


執行役員は「重要な使用人」にあたるので、その給与・年収等は取締役会の決議により決定されるべきことになる。執行役員規程を作成し、その中で報酬について規定することが多い。

Q 執行役員は英文でどう表記するのか。


一般的に執行役員は英語で「corporate officer 」と表記する。また、専務執行役員は「senior corporate executive officer」、常務執行役員は「associate senior corporate executive officer」で表記されることが多い。

Q 「委任型執行役員」とは何か。


日本企業で通常導入されている執行役員は「雇用型」と呼ばれ、雇用関係上は従業員となる。一方「委任型」はプロ野球選手のように原則、1年契約で会社と委任契約を結ぶ。独立性が高く、業務を自由に進めやすい半面、結果責任を厳しく問われることとなる。「雇用型」に比べて経営に参画する意識が強くなり、執行役員の緊張感が増すメリットがある。

Q 取締役ではない「社長執行役員」とは何か。会社法での扱いはどうなるのか。


取締役ではない「社長執行役員」とは任意の役職にすぎず、会社法は何も規定していない。執行役員は業務執行取締役の指揮監督下で委任された権限を行使する『重要な使用人』であるため、法的には、社長執行役員は代表取締役の指揮命令に従うとしつつ、事実上は経営計画の策定などでトップの役割を果たすことになる。

社長は代表取締役や代表執行役が就く経営トップの地位を指すが、取締役でない執行役員の中から社長を選ぶ「社長執行役員」であれば、株主総会を待たずに事業年度の途中であっても、新経営体制に移行できるというメリットがある。また、非取締役が円滑に経営トップの地位に就き、会社にリーダーシップの空白期間を作らないために社長執行役員とするケースが多く、取締役でない社長執行役員の役職を使うのは、臨時の処置が多い。

なお、執行役員と会社の関係は雇用契約と委任契約が存在するが、労働法の保護を受ける雇用関係は経営責任を負うトップの地位にそぐわないため、社長執行役員は委任契約としたほうが良い。

~参考文献~
東洋経済新報社「執行役員制度―運用のための理論と実務」(浜辺 陽一郎)
商事法務№1524「執行役員制度の実務マニュアル」
商事法務№1539「執行役員制度をめぐる理論と実務〔上〕」
商事法務№1540「執行役員制度をめぐる理論と実務〔下〕」
商事法務№1576「取締役と執行役員の関係」
商事法務№1577「取締役の執行役員兼務に関する諸問題」
商事法務№1643「執行役の選任・権限等と執行役員との関係」